VOL.18

海のガラスと山のガラス
 今回はガラスの基本について。
 ガラスといっても、ガレやドームやラリックによる作品群についてではなくて、「アンティークガラスの素材そのもの」についてお送りします。少々退屈な話かもしれませんが、知っておくと、あとでアンティークショップで多くのガラスに触れた時にとっても役に立ちます。

   <ガラスとは何なのか?>

 ガラスとは「無機物を熔融した製品で、結晶しないように、かたい状態まで冷却したもの」のことをいいます。つまり、『ガラス』というのは物質そのものことではなくて、その「状態」をあらわした言葉だといえます。しかも固体というより液体に近いもの。


   <ガラスの始まり>

 ローマの学者プリニウス(23−79AD)が書いた「博物誌」第36巻第65章または、同じくローマの歴史家タキトゥス(55−120AD)の「歴史」第5巻第7章によると…
 「フェニキアの貿易商人が、ベルス河の河口付近を航行中、海岸で食事をするため、船につんであったニトラムの塊を、かまどを作る石の代わりにして火を燃やしたところ、その熱で白砂と反応してガラスになった」というのが定説。このニトラムは天然の炭酸ナトリウム(ソーダ灰)といわれていますが、フリット(熔融したガラス)ではないかという説もあります。


   <ガラスの種類>

 ガラスの種類には、大きくはソーダガラスとカリガラスがあります。
 ソーダガラスで代表的なのがベネチアンクリスタル(今のクリスタルとは違います)。カリガラスで代表的なのがボヘミアンクリスタル。


   <海のガラス>

 ガラスは、主成分のシリカ・硅砂硅石に固定材とアルカリ熔融剤をまぜて作りますが、アルカリ熔融剤として、酸化ナトリウム・ソーダ灰を原料としているのがベネチアンクリスタルです。ソーダガラスは柔らかいので細工がしやすく、無色で透明性があります。

 ソーダガラスは、今日でも多くのガラス器に用いられていますが、古いものほどソーダ分が多く、軽くて柔らかく、まるでプラスチックのようです。触って手を離したときに、手に残るような感触があるのが特徴です。

 そして、ソーダ灰は、ある海草を燃やして作っていました。
 ベネチアはアドリア海に面した海上都市。海草はふんだんにありました。


   <山のガラス>

 ボヘミアは、ベネチアから北に数百キロ行ったあたりにある山岳森林地帯です。ローマ時代にも、海岸地方との交易はあったのでしょうが、地中海からはアルプスを越えていく必要があり、バルト海や北海から来るにしても相当な距離があります。
 そんなところでソーダ灰を手に入れるためには、かなりの大金が必要だったと推測されます。また、ソーダ灰はベネチアが独占していたという話しもあります。

 そこで、ボヘミアをはじめとするヨーロッパの内陸部では、海草を燃やして作ったソーダ灰の代りに、豊富にある森林を利用することを思い付きました。カリガラスは、木灰を使うため、ウォルドグラスやフォレストグラスという別名があります。

 カリガラスの特徴は、硬くてつやがあり、今のクリスタルに近いものです。ただ、木灰は多くの材木を燃やしてつくるため、ソーダ灰と較べて非常に不純物(鉄分)が多く、透明にはなりにくいという欠点がありました。カリガラスはそのままだと緑色になってしまうのです。

 そして、その欠点を克服するために砂岩(マンガン)を入れて透明にするなどの工夫がされ、透明で輝きのあるボヘミアンクリスタルが生み出されていきました。


 アンティークガラスとしては、もうひとつ、鉛ガラスという種類があります。
 これは、固定剤の酸化カルシウムの代りに酸化鉛を用いたもので、現代のいわゆるクリスタルガラスとは違います。いわゆるクリスタルガラスは、カリガラスに鉛を加えたもので、屈折率が上がり輝きや透明度が増しますが、反面とても重いガラスとなっています。

 クリスタルガラスについては、一つおもしろいお話しがあるのですが、これは後日ウランガラスについての特集のときにご紹介します。

   今回の、『化学教室』は以上で終わりです。