VOL.36

ロンドンからの荷物 後半「商業貨物奪還大作戦」
前回の買い付けから帰ってきて2ヵ月も経たないうちに、今年最後の買い付けに行って来ました。12月初旬から10日ほど、今回はお友達のディーラーと一緒に車を使って地方のフェアを巡る旅でした。この時期のイギリスは有名なアンティークのフェアが目白押しで、毎年1月に東京のお台場で開催される「骨董ジャンボリー」向けの商品を仕入れるのにちょうどいいタイミング。
 
さて、前回はロンドンに着いてからどんな風に商品を仕入れているのかという買い付けの一シーンを送りしましたが、今回は名づけて「商業貨物奪還大作戦」。日本に帰ってきてからもアンティークディーラーの戦いは終わらないのです。

昼間の買い付けで疲れ果て、夜中の梱包で自らに止めを刺す楽しい買い付けの日々を終えて、パディントン駅からヒースロー空港行きの列車に優雅に乗り込んだ私。でも、まだ手荷物を空港でチェックインする仕事が残っています。最近のように世界中でテロが横行する前までは、パディントン駅でチェックインという便利なシステムがあったのに。

空港でチェックインが終わるとやっと一息。免税店で日本の家族や友人たちのためのお買い物をします。スコッチウィスキーやブランデーのたっぷりはいったチョコレートが、ちょっとしたお使い物に便利で、我が家の人気商品です。手荷物に余裕があるときは、旦那の大好物のトラピストビールを買ったりします。でも、ビールは重くて効率が悪いので3年に1回くらい。

空港内にあるカフェで軽く食事を取ってから、いよいよボーディング。飛行機に乗ったら最後、あとは日本までひたすら眠ります。帰りの飛行機では食事も水も映画もいりません。ロンドンでの睡眠不足を取り返すかの様にただ眠るだけ。あっという間に成田空港に到着です。成田に到着したら、往きと同じ「あいのりタクシー」で自宅マンション前まで送ってもらえるので、超便利。

うまくいけば1週間ほどで「商業通関」を終えた私の荷物が銀座のお店に到着し、買い付けの旅はめでたくハッピーエンドとなるはずだったのですが…

実は、その兆候は、ロンドンにいるときからあったのです。

今年の日本は異常気象で、大雨、長雨、台風に大地震と立て続けにやってきていました。でも、まさか銀座の大きなビルの2階にある自分のお店が「雨漏り」をするなんて思ってもいません。ロンドンの夜明け頃「大変、雨漏りしてる」という電話が銀座のお店から入りました。東京のお店で雨漏りをしていると聞いても、ロンドンからではどうにもなりません。お店番に応急処置をお願いし、仕事中の旦那に一報をいれて後始末を頼みました。

帰国してみると、ビルオーナーの我儘で雨漏りの根本原因は解決しないまま次の台風を迎えようとしていました。頼りないビル管理会社の尻を叩き、嵐の中足場にのぼらせて再調査をさせ、なんとか水が出ないように工夫させることに成功。これで荷物が届けば万事オーケー。

帰国から1週間ほど経ち、雨漏り騒ぎも一段落して「今回は荷物が遅いなぁ」と思っていると××運送の担当者から「荷物は明日届きます」という電話が。ほっとしているのも束の間、電話の呼び出し音が再び鳴り「荷物が全品検査されることになりました」と間抜けな声。「はあ?」とこちらは空いた口がふさがりませんでした。

「全品検査」とか「全点検」というのは税関に提出した書類と、実際に輸入した貨物の中身が一致しているかどうかを検査すること。私が寝る間も惜しんで梱包した全ての荷物を、アンティークの扱いなど何も知らない××運送の手配業者が、開いて、いいかげんに再梱包をすることです。これをやられると、運送中に段ボールごと放り投げられても大丈夫なくらい芸術的に梱包した私の努力が水の泡。「全品検査」をやられた、ある知り合いの業者さんはガレやドームなどの貴重品を日本国内での輸送中に半分近く割られて大損害を蒙っていました。

アンティークの「損害」は金銭的な部分だけではありません。
お金は保険を掛けておけば戻ってきますが、壊れてしまったアンティークは2度と誰の手にも入らないのです。

「全品検査」は、運送会社が主体で行うものではなく、あくまで税関の要請によって行われるもの。これをやられると割れ物の梱包を全て解かれるだけでなく、梱包を解いて再梱包をする業者の2日分の日当までこちらが負担しなければならないという理不尽さ。いくら何を言っても「いやあ、税関が言っていますから」「規則ですから」しか言わない間抜けな××運送の担当者に危機感を覚えた私は、成田の空港税関に単身乗り込むことに。

その朝、ガンマニアの旦那から渡されたシブヤカスタムワークスのコルトガバメントをヒップホルスターに収め、背中にはゴルゴ13も愛用しているマルイの電動ガンM16A2を背負い、2000発のBB弾を懐に(嘘です)、上野から京成スカイライナーで成田の第二空港に向かいました。

あちこち迷いながら、空港内にある税関の通関相談窓口というところを始業と同時に訪れてみると、意外なことに税関の方々は紳士的でとても優しい人たちだったのです。じっくりと相談にのっていただき、××運送の担当者を税関まで直接呼び出していただき、荷受人が自ら交渉にきたことで、「全品検査」をすることもなくスムーズに荷物を受け渡してもらえることになりました。もちろん、私がロンドンで運送会社に提出した書類はスプーン1本、小皿1枚に至るまで完璧なものであったことは言うまでもありません。