VOL.35

ロンドンからの荷物 前半「のろいの壷」

  10月も半ばを過ぎたこの2〜3日、寒い日が続いています。
  ひと月前はあんなに暑かったのが嘘のよう。
  9月末、日本の猛烈な残暑を後にロンドンへ今年3度目の買付に出かけて
  いきました。
  ロンドンへ買付に行くと、留守にしている東京のお店で何かが起こる!
  もちろんあまりうれしくないことです。今回もそれは起きました。なんと
  今回は行っている間だけではなくて、帰ってきてからも起こったのでした。

  神様、この試練は何?
  ちょっと聞いてみるのですが、神様はそんなに簡単には答えてくれません。
  アンティークの買付の旅に興味を持ってくださる方が大勢いらっしゃいま
  すので、今回と次回の2回に分けて、買付の旅の様子をお送りします。

  午前8時に「あいのりタクシー」がマンションの前にやってくると、私の
  買付の旅の始まりです。旦那と一緒にスーツケースとカートをエレヴェー
  タで1階まで降ろし、駐車場まで転がしていく。たすき掛けにしたビジネ
  スバッグを手に持ち替えて、旦那はそのまま仕事へ。「バイバイ」ここか
  らは私ひとりだけ。今日は風もなくよい天気。

  1年ほど前まで、成田に行くには渋谷から成田エクスプレスを使ったり、
  箱崎からリムジンバスに乗ったりしていましたが、最近は、あいのりタク
  シーがあるので安くて便利です。家の前から成田のチェックインカウンタ
  ーの前まで連れて行ってくれるので、非力な女性には大助かり。宅急便で
  荷物を前日に発送する必要もないので、梱包も前日までゆっくりできるし、
  自分で車を運転して行くよりずっと楽ができます。料金は成田エクスプレ
  スと同じくらいなので、とてもリーズナブル。

  行きの飛行機の楽しみはなんといっても映画上映。
  なのに…9月の往路の上映予定をホームページで調べてるんるんで飛行機
  に乗った私はがっかり。プログラムは既に10月のものに様変わりしてい
  ました。
  「まだ9月29日なのになんで10月の映画をやるの!? 責任者出てこ
  い!映画分を返せ」と言いたいところだけど、こんなところでエネルギー
  使ってる場合じゃない。

  さて、ここで「じゃあ寝るか」と思っているうちはまだまだ素人。行きの
  飛行機はがんばってとにかく起きている事が肝心です。ロンドンの宿に到
  着するのはイギリス時間で夕方の4時頃。それからスーパーに行って買い
  物をし、軽く夕食を済ませるとすっかり「お休みなさい」の時間。目ざま
  しを掛けて、倒れ込むようにベッドで眠りにつきます。翌朝からは毎日4
  時、5時起きであちこちのフェアやマーケットに行かねばなりません。飛
  行機で気持よく眠ってしまうと、時間差を克服できずにあとが大変。だか
  ら、飛行機の映画は大事なのです。

  もっとも、私の旦那が一緒に行くと、行きの飛行機でも「ぐうぐう」。
  ホテルでベッドに入っても3秒後には眠りについています。こういう特異
  体質の人は別です。

  私のロンドンでの常宿はアラブ系の人が経営しているホテル。3〜4ヶ月
  毎に泊るので、なくなってもショックの少ない荷物は帰国するときにここ
  に預けてしまいます。大きな(高い)ホテルは別かもしれませんが、基本
  的にはイギリスのホテルは何事もいい加減です。預けた段ボールが1枚く
  らい足りなくても、3つ預けた荷物が「2つしかない」と言われても慌て
  てはいけません。「倉庫はどこかしら?」と聞いて、一緒に探しに行くく
  らいの余裕が必要です。

  アンティークフェアで欲しいものを見つけてドキドキしたとき、私は日本
  へ電話をかけます。こんなときはボーダフォンが便利です。電話で日本の
  旦那と相談が始まります。旦那は「うーん」と一瞬考えるふりをした後
  「それは買いだ!」という指令を飛ばします。もっとも、いちいち電話で
  聞かなくても答えは分かっているんですけどね。

  私は急いでさっきのブースにかけ戻ります。

  どこかのおばちゃんが、「私の商品」になるはずの壷を手にしています。
  濃いブルーの壷を両手にもって日に透かしてみたり、中を覗き込んでみた
  り、ときどきブースのおじさんと二言三言言葉を交わしています。どうや
  ら「もっと安くならないかしら?」と言っている様子。おじさんは首を横
  に振っています。

  「お願い、それを降ろしてその手を離して!」今の私にできるのは「念じ
  る」ことだけ。しばらくおばさんの後ろに立って念じていると、おばさん
  は「あらそう、まけてくれないのね」とばかりに壷を台の上に置いて立ち
  去っていく気配です。

  おばさんが壷を台の上に置くが早いか、私の手が壷に伸びるのが早いかと
  いうくらいのスピードで私はそれをつかみ取り「おじさん、これちょうだ
  い。まけてくれなくていいから私にちょうだい」といちおうここは英語で
  まくしたてる。

  そんな風にして多くの商品は私の手元に渡ってきます。ですから私は誰よ
  りも私の商品たちに愛着を持っています。

  だからこそ、「こんなこと」が起きたら大騒ぎなのです。
  というわけで「こんなこと」は後半に続きます。
  次回は「商業貨物奪還大作戦」です。