VOL.34

アンティークもミステリもやっぱり猫が好き
昨年末は自宅の引越しと「アンティークモール銀座」の「大移動」が重なり、
ハードな日々の連続でした。イギリスでの買付のときに梱包で徹夜をするのは
毎度のことですが、「引越し」準備で完徹したのは初めての経験です。

そんなハードな日々を忘れて、のんびりとお風呂に浸かってミステリでも読んで
すごしたいと思う今日この頃。

ミステリの中には、何らかの方法によって過去の時代に遡って書かれた「歴史
ミステリ」と呼ばれている分野があります。

イギリスで有名な「歴史ミステリ」には、リチャード3世をテーマにして書かれ
たジョセフィン・ティの『時の娘』があります。日本では、その『時の娘』の
影響を受けて、というよりその手法を真似て書かれた『ジンギスカンの秘密』と
いう小説があります。私のだんなは、この『ジンギスカンの秘密』が大好きなよ
うで、3回読んだと言っていました。

でも、ほとんどのミステリは作者が生きたその時代をリアルに描いたものと
いってよいでしょう。

ということは、かなり強引な引っ張り方ですが、印刷された書籍は別として
(それはそれで「古書」という分野があります)、そこに書かれた内容はまさ
しく「アンティーク」ということができましょう。


19世紀、ヴィクトリア朝の夜の暗さを描いた傑作といえばもちろんシャー
ロック・ホームズ。ヴィクトリア女王の時代というのは、その華やかさと裏腹
に庶民が住む街はスモッグに覆われて昼なお暗く、浮浪者があたりを彷徨し、
ヘドロにまみれたテムズ川からは1日に3〜4体の水死体が引き上げられてい
たという結構とんでもない時代でした。

そのヴィクトリア時代を明るく軽快に描き出しているのが、ピーター・ラヴゼイ   の「殿下」シリーズ。「殿下」というのは、ときの英国皇太子アルバート・
エドワードのこと。親しい友人たちから「バーティ」と呼ばれていた皇太子が
探偵となって、夜毎ロンドンの街中を闊歩する痛快な物語です。

著者のピーター・ラヴゼイは現代の人なので、この小説は「歴史ミステリ」
に分類されるのかもしれませんが、ピーター・ラヴゼイの歴史的な考証につい
てはイギリスでも定評があり、ヴィクトリア時代を現代人にも分かりやすく描
写しているので、当時のことを勉強したい人にはお勧めです。

そして、1930年代アール・デコの時代を代表するミステリといえばエルキ
ュール・ポアロのシリーズ。「ベルギー人の小男」であり「灰色の脳細胞」を
持つ「世界一の探偵」ポアロを生み出したのは1890年、ヴィクトリア時代
生まれのアガサ・クリスティです。

アガサ・クリスティの小説は、どちらかというと戯曲に近く、ハードボイル
ドのように身の回りの風景を書き込む手法はとられていないので、当時の街の
様子は分かりにくいかもしれません。どうしても、当時の様子が知りたいとい
う方は、イギリスで放映されたTVシリーズの『名探偵ポワロ』をご覧になる
とよいでしょう。

ずいぶん前に、スージー・クーパーを取り上げた当メルマガで、この一連の
ドラマの中にスージー・クーパーの陶器が登場するシーンがあると書きました。
実は、そのときに書いたタイトル以外にも、いくつかスージー・クーパーの陶
器が登場する『名探偵ポワロ』の短編があります。おなじみの鹿のバックスタ
ンプまではっきり見えるものもありますので、興味のある方はじっくりとご覧
になってみてください。

骨董・アンティークそのものを素材にしたミステリでは、和物にいいものが
あります。北森鴻という作家の『狐罠(きつねわな)』。古美術商<冬狐堂>
の宇佐美陶子を主人公にしたシリーズ物で、現在3冊ほど出版されているはず
です。うちのだんなはこの宇佐美陶子が「なんでも鑑定団」の掛け軸の鬼(だ
ったかしら?)安河内眞美さんを彷彿とさせると言い張っています。

洋物では、最近、文春文庫から出た『死体あります(アンティーク・フェア
殺人事件)』リア・ウェイト著などもありますが、アンティーク・フェアの雰
囲気を知るにはよい1冊かもしれません。ミステリとしての完成度については
いまひとつというところでしょうか。

それから最後に、リリアン・J・ブラウンの『猫はスイッチを入れる』。
シャム猫のココが主人公のシリーズもので、4冊めの『猫はスイッチを入れ
る』はアンティークショップが軒を連ねるジャンクタウンが舞台。猫とアンテ
ィークが好きな人にお勧めの1冊です。