VOL.6

どんな雲にも銀の裏地がついている
Every cloud has a silver lining.というのはイギリスの諺で、日本語で言うと「苦あれば楽あり」という意味らしいのですが、cloudという語には「暗影」「暗雲」といった意味もあり、私には、「戦争の暗雲」というようななにやらきな臭い気配も感じられます。

シルバーウェアは、注文製作や貴族のお抱え職人の手によるものが多く、流行の様式とは異なる個人の趣味嗜好が反映されることもあり、デザインだけで製作年代を判断するのは難しいものです。

また、「銀」はもともと高価なものでもあったので、新しいデザインのものが出たからといって、そうそう買い替えることもできず、鋳潰されて、あたらしいデザインのものに作り替えられることも多かったようです。


<イギリスのシルバーウェアの歴史>

クイーンアン様式 17〜18世紀初め。
手の込んだ装飾や洋梨型のデザインが特徴です。
実際に残っているのは19世紀のリバイバル品が多く、様式だけ
での判定は困難です。判定にはホールマークを使用します。

ロココ様式 18世紀中頃。
貝殻や植物などをモチーフとした豪華絢爛さが特徴です。
フランスで弾圧され、イギリスに亡命してきたユグノー教徒がイ
ギリスで生み出した様式です。

ネオクラシカル様式 18世紀中〜18世紀末。
1748年のポンペイの古代都市の発掘に端を発した、ギリシャ
ローマ文明をモチーフとしたもの。
ティーポットは、底が平らで口も底から出ているのが特徴です。
ネオクラシカル様式の、台付きのティーポットはなかなか手に入
らないものなので、高くても手に入れたいもののひとつです。

リージェンシー様式 19世紀初め。
注ぎ口の付け根ところにアカンサスの葉がデザインされているの
が特徴です。
この頃からシルバーウェアのリサイクルの必要がなくなり、セッ
トものが出回るようになっています。

ヴィクトリアン様式 19世紀。
過去のさまざまな様式を取り入れた、多様なデザインが特徴。


<ホールマークについて>

アンティークのシルバーウェアには、ブランドというものがありません。というのは、最初に書いたように、シルバーウェアは注文製作や貴族のお抱え職人によるものが多いため、磁器や陶器のようにブランドというものがないのです。そこで、ホールマークが大きな役割を持ってきます。

イギリスのホールマークは、金と銀については1300年代からという長い歴史があり多くの解説書も出版されていて、品物を選ぶ際の重要な基準となっています。ホールマークを見ることで、その製品がいつどこで作られたどんな品質のものかが分かるようになっています。なかでも一番大事なのが、スタンダードマークでしょうか。

イギリスの銀製品には3〜5個の刻印が打たれていますが、スターリングシルバーと認められると、横向きのライオン印のスタンダードマークが刻印されます。スターリングシルバーというのは、銀の含有量が92.5%で、残りは銅を混ぜた合金のことをいいます。イギリス以外の国でもホールマークはありますが、イギリスのホールマークほど正確に年代の特定などはできないようです。ちなみにアメリカでは、スターリングシルバーには"Sterling"または"Sterling Silver"と刻印されています。


<銀と戦争>

冒頭で、なにやらきな臭い気配も…と書きましたが、銀には戦争がつきもののようです。たとえば、中世のヨーロッパは常に戦乱の中にあり、シルバーウェアが戦争の費用を捻出するのに役立ったのです。食事をするために携行した銀器を(ずいぶん優雅な戦場という気もしますが)、戦争が長引いて軍資金が底をつくと、現地の通貨に替えることが多かったのです。

また1840年、イギリスと清との間で、アヘン戦争が起こりました。中学、高校の世界史の授業でこの「アヘン戦争」という言葉は聞いていると思いますが、これには「銀」が大きく関わりを持っています。「三角貿易」といわれる方法で、当時のイギリスはインド経由でおそらく安い値段で大量の銀を手に入れていたようです。

時代的には、イギリスでの銀の絶対量が多くなり、鋳潰して新しいデザインのものを作る必要がなくなり、セットものが出回り始めたリージェンシー様式の頃に重なっているように思われます。そんな歴史を踏まえると「どんな雲にも銀の裏地がついている」という諺も違った顔で見えて来る気がします。