VOL.5

世界を旅した椅子の話  オーク材の家具
我が家にある背板の取れかかったオーク材の椅子と、広げると150センチになるドローリーフテーブル。椅子の脚は、バラスターレッグと呼ばれているデザインで、花瓶をモチーフにしたようなすっきりしたデザインが特徴的です。どちらも都内にあるアンティークショップで数年前に購入したもの。製作された正確な年代はわかりませんが、おそらく1920年代頃にイギリスで作られたものと思われます。

オーク材というのは、ブナ科コナラ属に属す木で、学名は「クエルクス」といいます。あのどんぐりの実を豊かに実らせる大木です。ラテン語で「良質の材木」、あるいは「美しい樹」という意味を持っています。ギリシャ神話の中ではゼウスの「聖なる木」とされていますし、イギリスでは王家の紋章としても使われていて、「森の王(キングオブフォレスト)」と呼ばれ、剛健・長寿の象徴とされているそうです。

欧米諸国では古くから高級家具材としても知られ、独特の木目の美しさは長い時間を経たものでも変わることがありません。また、世界史上ではスペインやイギリスがオーク材を使って艦隊を作り、世界の征服に乗り出したのは有名な話です。

その、どんぐりの木ですが日本ではあまり家具の素材として使われることはなく、ようやく30年ほど前から家具の良材として注目を浴びるようになってきました。欧米諸国で高級家具材や船材として重宝されていた頃、日本では「雑木(ぞうき)」として顧みられることはありませんでした。

現在、日本にアンティーク家具として大量に輸入されているのは、1920年代にリプロダクションされた16世紀から19世紀までの各様式のオーク家具と1930年代に数多く作られたアールデコ様式の家具です。つまり、古い様式の家具であっても必ずしも本当に古いものではないということがいえます。ただし、古い家具ほど良い家具だというものでもないというのも真実でしょう。

リプロダクションはアメリカでも行われていて、手元にアメリカで製作されたリプロダクションの資料があるので、参考までに。

Victorian1840-1900
Early Victorian1840-1900
Gothic Revival1840-90
Rococo(Louis XV)1845-70
Renaissance Revival1860-85
Louis XVI1866-75
Eastlake1870-95
Jacobean & Turkish Revival1870-90
Aestheric Movement1880-1900

さて、1880年頃−日本の時代でいうと明治時代の中頃−以降、北海道からイギリスに多くの「どんぐりの木」が輸出されていたという記録があります。先ほど触れたように、その頃の日本ではオークは「雑木」でしたから、おそらくとても安い値段で取引きがされていたと思われます。そして、北海道からイギリスに向けて輸出されたオーク材は、船材や建材として利用されたものもあったのでしょうが、かなりのオーク材が当時のイギリスで盛んにおこなわれていた家具のリプロダクションに使われていました。

つまり、明治の昔、遠い異国へ旅立っていった日本のどんぐりの木が長い航海の末、イギリスで椅子やテーブルに形を変えて、平成の今、朽ちることもなく再び日本に戻ってきた。そんな風に考えると、どんぐりが「聖なる木」であったり、イギリスでは王家の紋章としても使われているという、力強さや神秘性にも頷けるものがある気がします。

我が家にある椅子とテーブルは、特にこれといった様式もないものですが、製作された年代から推測すると、北海道の原生林でそだったオーク材で作られた可能性がとても高いものです。せっかく高い金額で買った家具が、純粋に外国製でないからがっかりするかというと、そんなことはありません。むしろ、「自分の家で使っているイギリス製の家具が、長い時間を掛けて、地球を旅して故郷に帰ってきたオークトゥリーだ」と思うと、とてもロマンチックで、ますますアンティークの家具に対して愛着が湧いてくる気がしませんか?


<イギリスのオークについて>
現在のイギリスでは、ロンドンのどこかの公園に行くだけでオークの大木を見ることができます。野生のままのオークであれば、ディーンの森でも、ロビンフッドのいたシャーウッドの森でも、田舎であればだいたいどこでも見ることができます。かつてはオークの木を伐採しまくり、イギリス中からオークの大木が見られなくなるようなこともあったようですが、現在のイギリスでは、既に長年にわたってオークは敬意を持って扱われ、厳しく保護されています。